ブルース・リーをCGで再現したジョニーウォーカーCMとは?制作方法と賛否を解説

「ブルース・リーが現代によみがえった」

2013年に公開されたジョニーウォーカーの映像を初めて見たとき、 私は本当にそう感じました。

香港の夜景を背に歩き、静かに哲学を語るブルース・リー。 表情や目の動きまで驚くほど自然で、思わず鳥肌が立った映像です。

しかし、これはブルース・リー本人の未公開映像ではありません。 また、すべてをコンピューターだけで作った「完全なフルCG」でもありません。

この記事の結論
このCMは、俳優の演技を基にブルース・リーの頭部や表情をCGで再構成した映像です。 娘のシャノン・リーも制作に協力しましたが、 酒類広告への起用や話す言語をめぐって賛否が分かれました。

ブルース・リーをCGで再現したCMとは

この映像は、ジョニーウォーカー・ブルーラベルの中国向け広告として 2013年に公開された「Game Changer」です。

舞台は現代の香港。 ブルース・リーを再現した人物が夜景を背に歩きながら、 水、直感、変化、自分らしく生きることについて語ります。

最後にはブルーラベルのボトルが映りますが、 映像の中心にあるのは商品の説明ではなく、 ブルース・リーの哲学を現代的に表現した短編映画のような構成です。

CM映像を確認する

※リンク先はThe Guardianの映像ページです。映像提供元はDiageo/Johnnie Walkerと記載されています。

本当にすべてがCGだったのか

旧記事では「フルCG映像」と紹介していましたが、 より正確には、実写とCGを組み合わせた映像です。

ブルース・リーの動きの基礎となったのは、 香港の俳優ダニー・チャン・クォックワンです。

ダニー・チャンは、映画やドラマでもブルース・リーを演じた経験があり、 顔立ちや身のこなしが似ていることで知られています。

制作チームは、その演技を基にブルース・リーの頭部や顔の細部をCGで再構成しました。 報道では、約250種類に及ぶ表情や、 表情から次の表情へ移る途中の細かな動きまで作られたとされています。

そのため、単に静止画の顔を俳優へ貼り付けた映像ではありません。 まばたき、視線、口元、頬の動きなどが連続しているからこそ、 見る側は「本当にブルース・リーが話している」と感じるのでしょう。

制作には約9か月を要した

映像は香港で撮影され、 CG制作はロンドンのVFX制作会社The Millが担当しました。

監督のジョセフ・カーンによる制作説明では、 ブルース・リーのCG表現を完成させるまでに約9か月を費やしたとされています。

顔の動きには一般的なモーションキャプチャーをそのまま使うのではなく、 アーティストが手作業で細かく表情を作り込む方法が採られました。

2013年当時の映像として見ると、その完成度は非常に高いと思います。 現在は生成AIによる人物映像も珍しくなくなりましたが、 当時は故人をこれほど自然に映像へ登場させること自体が大きな驚きでした。

シャノン・リーも制作に協力した

ブルース・リーの娘であるシャノン・リーも、 この映像の制作に相談役として参加しています。

制作チームは、父親の外見だけでなく、 表情、雰囲気、哲学の伝え方についてもシャノンの意見を聞いたと説明しています。

シャノンは当時の取材で、 これは単に酒を売るための広告ではなく、 新しい技術を使って父の哲学へ敬意を示す作品として受け止めていると語りました。

実際、映像の中でCGのブルース・リーがボトルを持ったり、 ウイスキーを飲んだりする場面はありません。

娘シャノンが著書を通して伝えたブルース・リーの哲学については、 次の記事でも詳しく紹介しています。

なぜ批判も起きたのか

映像技術は高く評価された一方で、 ブルース・リーをウイスキーの広告に登場させることには批判もありました。

酒類広告への起用

ブルース・リーは肉体を厳しく管理した人物として知られています。

そのため、本人が生前に選んだわけではない酒類広告へ 故人の姿を登場させることに、違和感を抱くファンがいました。

一方でシャノンは、 ウイスキーそのものを父に宣伝させたのではなく、 ブランドの支援によって父の哲学を描いた短編作品だという見方を示しています。

広東語ではなく標準中国語だった

映像のブルース・リーは、中国本土向けに標準中国語で話します。

香港で育ったブルース・リーの言語的背景を考えると、 広東語ではないことに不自然さを感じた人もいました。

これは中国市場向け広告としての選択だったと考えられますが、 本人らしさをどこまで守るべきかという議論につながりました。

故人をCGで出演させること

本人が承諾できない状態で、 CGによって新しい言葉や行動を与えることにも倫理的な問題があります。

家族や権利者が承認していても、 「本人なら本当にこの仕事を受けただろうか」という疑問は残ります。

この問題は、生成AIで実在人物の映像を作れる現在、 2013年当時よりもさらに重要になっています。

映像の中心にある「水」の哲学

このCMが強い印象を残す理由は、 顔の再現技術だけではありません。

映像の中心には、ブルース・リーを象徴する 「水のように形を変え、流れ、力を発揮する」という哲学があります。

ただし、CM内の文章すべてを ブルース・リー本人が生前に同じ形で語ったと受け取るべきではありません。

本人の思想や「Be water」のイメージを基に、 広告作品として再構成された言葉と見るのが適切です。

今見ても、ブルース・リーが生きているように感じる

私は初めてこの映像を見たとき、 技術の仕組みを知らず、本当にブルース・リーがそこにいるように感じました。

制作方法を知った現在でも、その驚きは変わりません。

ただし、技術的に優れていることと、 故人を広告へ登場させることが正しいかどうかは別の問題です。

この映像は、ブルース・リーの影響力が死後も失われていないことを示すと同時に、 人物の姿や言葉を誰が、どのような目的で使うべきかを考えさせます。

単なる「すごいCG映像」で終わらせず、 ブルース・リーの哲学と、現代技術が持つ力の両方を見ることで、 このCMはさらに興味深い作品になるのではないでしょうか。

参考資料

※本記事では、報道資料・制作情報で確認できる事実と、筆者個人の感想・解釈を区別して記載しています。