ブルース・リー1965年の筋トレメニュー|5月27日の実物トレーニング記録を読み解く

1965年のトレーニングカードを前に、黒と金のジムでバーベルと前腕トレーニングに取り組むブルース・リーを表現したアイキャッチ

ブルース・リーの肉体について調べていると、

必ずと言っていいほど出てくる一枚の紙があります。

上部には、 HAK KEUNG GYMNASIUM

そして、 May 27 1965

ブルース・リーの名前とともに、 スクワット、カール、腕立て伏せ、
リストカール、腹筋などの重量と回数が 細かく書き込まれたトレーニングカードです。

ネットではしばしば、 これが 「ブルース・リーの秘密の筋トレメニュー」
として紹介されています。

しかし、このカードを面白くするのは、 種目や重量だけではありません。

これは、 完成された映画スター ブルース・リーの最終メニューではなく、
身体そのものを実験材料にしていた時期の記録 だからです。

今回は1965年5月27日の記録を読みながら、 ブルース・リーが当時何を鍛えていたのか、 そして後のトレーニング思想へ どう変化していったのかまで追います。

まず重要|これは「生涯続けた固定メニュー」ではない

最初に、 最も重要なことを確認しておきます。

1965年5月27日のカードは、 ブルース・リーのトレーニング人生を切り取った
一枚のスナップショットです。

「ブルース・リーは毎日このメニューをやっていた」 と考えるのは正確ではありません。

ブルース・リーの身体づくりをまとめた 『The Art of Expressing the Human Body』は、 本人が残したノート、日記、手紙、 トレーニング記録などをもとに構成されています。

そこから分かるのは、 彼が一つのトレーニング方法へ 固定されていた人物ではないということです。

ウェイトトレーニング。

ランニング。

サーキットトレーニング。

パンチとキック。

前腕と握力。

ストレッチ。

そして食事や休養。

試して、 記録して、 必要なら変える。

ブルース・リーのトレーニングそのものが、 常に更新されていました。

1965年5月27日|Hak Keung Gymnasiumの記録

カードに記されている場所は、 香港の Hak Keung Gymnasium

日付は、 1965年5月27日です。

公開資料や後年の転記から読み取れる内容を、
ポンドからおおよそのkgへ換算すると 次のようになります。

種目 セット 重量 回数
スクワット 3 95lb
約43kg
10回
French Press 1 4 64lb
約29kg
6回
インクライン・カール 4 35lb
約16kg
6回
French Press 2 4 64lb
約29kg
6回
Con Curl 4 35lb
約16kg
6回
プッシュアップ 3 70〜80lbと記録
約32〜36kg
10回
Two Hand Curl 3 70〜80lb
約32〜36kg
8回
Tricep Stretch 3 3lb
約1.4kg
6〜8回
Dumbbell Circle 4 16lb
約7.3kg
inf.
Reverse Curl 4 64lb
約29kg
6回
Wrist Curl 1 4 64lb
約29kg
inf.
Wrist Curl 2 4 10lb
約4.5kg
inf.
Sit Up 5 自重 12回
Calf Raise 5 自重 20回

※ポンドからkgへの換算は概算です。 また、古い手書きカードには略記があります。 特に「French Press 1/2」やプッシュアップの負荷方法などは、 カードだけから実施方法の細部まで断定できません。

マニアが見るべきなのは「43kgのスクワット」ではない

この表を見ると、 意外に思うかもしれません。

スクワットは約43kg。

「ブルース・リーなのに、 そんなに軽いの?」 と思う人もいるでしょう。

しかし、 ここで現在のパワーリフティングの数字と 単純比較するのは危険です。

これは 「最大重量を競った記録」 ではありません。

1965年当時の 一つのトレーニングプログラムです。

この紙の価値は、 ブルース・リーが何kg持ち上げたかより、
何を測り、何を記録していたかにあります。

セット。

重量。

回数。

種目。

つまり、 感覚だけでトレーニングしていたのではありません。

自分の身体を観察し、 数字として残していた。

この姿勢こそ、 後のブルース・リーにつながります。

異常なほど多い「腕」と「前腕」

カードをじっくり見ると、 もう一つ特徴があります。

腕の種目が、 とにかく多い。

インクライン・カール。

コンセントレーション系のカール。

ツーハンド・カール。

リバース・カール。

二種類のリストカール。

フレンチプレス。

学術的なブルース・リー研究でも、 この1965年のプログラムは
上腕二頭筋、上腕三頭筋、前腕へかなり比重が置かれている と分析されています。

これは興味深い点です。

後年のブルース・リーには「見せるためだけの大きな筋肉」を求めなかったイメージがあります。

実際、公式資料でも、 彼は単なる大型化より、 強く、速く、敏捷に動ける身体 を求める方向へ進んだことが説明されています。

ところが1965年のカードを見ると、 腕のサイズを作るような かなりボディビル的な種目も多い。

ブルース・リーは最初から 「完成したブルース・リー式」を知っていたわけではない。

実際に試しながら、 自分の答えを作っていった。

ここが、 このカードの最も面白いところです。

「inf.」とは何なのか

カードの Dumbbell CircleやWrist Curlには、 回数の欄に 「inf.」 という表記があります。

ネット上では一般に、 「限界まで」 あるいは 「できるだけ多く」 という意味として解釈されています。

ただし、 この略号の定義が カードそのものに書いてあるわけではありません。

古い資料では、 読めることと推測できることを分ける。

「ブルース・リーは必ず○回やった」 と数字を作ってしまうより、
原資料に残された inf. という表記をそのまま尊重した方が正確です。

ブルース・リーの記事では、 こうした小さな区別が意外と重要です。

加重腕立ては本当に32〜36kgだったのか

特にネットで派手に紹介されやすいのが、 プッシュアップです。

カードには、 プッシュアップの行に 70〜80lb という数字が残っています。

約32〜36kgです。

多くの記事では、 これを 「32〜36kgを背中へ載せた加重腕立て伏せ」
として紹介しています。

しかし、 原カードだけから 負荷を具体的にどのような方法で掛けていたか まで読み取ることはできません。

カードから確認できること: Push Up/3セット/70〜80lb/10回

カードだけでは確認できないこと: その負荷を身体へどう掛けたかという細部

ここを分けておくと、 ネット上のブルース・リー伝説と、
確認できる記録を混同せずに済みます。

44日間・14回のトレーニングで身体は変化したとされる

『The Art of Expressing the Human Body』では、 このプログラムを
週3回程度行った時期について、さらに興味深い記録が紹介されています。

1965年5月27日から7月10日まで。

期間は44日。

トレーニング回数は14回。

同書にまとめられた本人の身体測定記録では、
その期間に胸囲、腕、前腕、脚などが増え、 ウエストは減少したとされています。

たとえば、 リラックス時の胸囲は約2.5インチ、
左右の上腕は約0.75インチ増えたという記録です。

ただし、 ここは慎重に扱うべきでしょう。

これは現代の研究施設で 第三者が測定したトレーニング実験ではありません。

ブルース・リーの記録をもとに、 後年編集された資料です。

したがって、 「44日やれば誰でも同じだけ筋肉が増える」 という話ではありません。

むしろ重要なのは、 彼が身体のサイズまで記録して 変化を確認していた という事実です。

この時期はブルース・リーの転換点だった

Bruce Lee公式サイトでは、 オークランドでの大きな試合をきっかけに、
ブルース・リーが フィットネスと栄養を さらに深く研究するようになった
と説明されています。

ウェイトトレーニングも取り入れました。

しかし、 単純に身体を大きくすることには 満足しませんでした。

目指したのは、 強さ、速さ、敏捷性を 同時に備えた身体 です。

だからこそ、 1965年のカードを 完成形として見るべきではありません。

1965年のブルース・リーは、 「答え」を実行していたのではない。

自分の身体を使って、 答えを探していた。

後のブルース・リーは、さらにトレーニングを変えていく

その後の記録を見ると、 トレーニング内容は さらに広がっていきます。

ウェイト。

ランニング。

サーキット。

バッグ。

パンチ。

キック。

ストレッチ。

握力。

前腕。

Bruce Lee公式サイトによれば、 彼はトレーニング器具そのものを 改造することさえありました。

さらに日々のプランナーへ、 パンチ、キック、腹筋、 走った距離などを細かく記録していました。

ブルース・リーの本当の秘密は、 秘密のメニューを知っていたことではない。

自分自身を研究し続けたことだった。

この一枚が否定する「4つのブルース・リー伝説」

「ブルース・リーはウェイトをやらなかった」
→ 1965年の実際のカードに、 明確なウェイト種目が残っています。

「一生同じ秘密メニューを続けていた」
→ 実際にはトレーニング方法を 何度も変えています。

「常に超重量を持ち上げていた」
→ 1965年の記録には、 現在の感覚では比較的普通に見える重量も多くあります。

「有名な種目は全部このメニューに入っている」
→ 例えばネットで頻繁に語られるドラゴンフラッグなどは、 この1965年5月27日のカードには記載されていません。

ブルース・リーの強さは「記録魔」であることにもあった

映画を見ると、 ブルース・リーは直感だけで動いているように見えます。

速い。

自然。

考える前に身体が動く。

しかし、 その裏側に残っている資料を見ると、 まったく違う姿が現れます。

数字を書く。

身体を測る。

本を読む。

試す。

結果を見る。

合わなければ捨てる。

別の方法を試す。

この繰り返しです。

Bruce Lee公式が紹介する 「Research your own experience」 という考え方も、
単なる格好いい哲学ではありません。

1965年のトレーニングカードを見ると、 実際にそれを身体で行っていたことが分かります。

「考えるな、感じろ」と記録魔は矛盾しない

ここも、 ブルース・リーの面白いところです。

「考えるな、感じろ」 というイメージだけを見ると、
分析や数字を嫌っていた人物のようにも見えます。

実際は逆です。

練習段階では、 徹底的に調べる。

分解する。

記録する。

反復する。

そして最後には、 考えなくても動けるところまで 身体へ落とし込む。

“Research your own experience.”

「自分自身の経験を研究せよ。」

出典:Bruce Lee公式 /日本語訳は当サイト

直感は、 準備をしないことではありません。

膨大な検証を終えたあとに現れる、 自然な動き。

1965年の小さなトレーニングカードには、
その後のブルース・リー哲学の原型が すでに見えています。

この資料をさらに深く読みたい人へ

1965年のカードだけでなく、 ブルース・リーが残した ウェイト、前腕、腹筋、持久力、 ストレッチなどの記録をさらに追いたい人には、 英語版 『The Art of Expressing the Human Body』 があります。

出版社Tuttleによれば、 本人のノート、手紙、日記、 トレーニングログなどをもとに John Littleが編集した一冊です。

単なる「ブルース・リー式筋トレ本」というより、 彼が身体をどう研究し、 方法を変えていったかを見る資料 として読むと非常に面白い本です。

※本記事はAmazonアソシエイト・プログラムを利用しています。

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まとめ|伝説の肉体より、「作っている途中」が面白い

完成したブルース・リーの身体は、 あまりにも完成度が高く見えます。

だから、 最初から特別な方法を知っていた人物のように 考えてしまいます。

しかし、 1965年5月27日のカードを見ると、 もっと人間的なブルース・リーが見えてきます。

1965年、実際にウェイトトレーニングをしていた。

腕と前腕の種目がかなり多かった。

重量・セット・回数を記録していた。

身体そのものの変化も測っていた。

そして、その方法を完成形とはせず、 後にさらに変えていった。

ブルース・リーの凄さは、 一つの完璧なトレーニング法を 発見したことではありません。

自分自身を研究対象にし、 変化し続けたこと。

60年以上前の一枚のトレーニングカードから、 その姿勢がはっきり見えてきます。

そして私は、 完成した筋肉の写真よりも、 こうした 「ブルース・リーがブルース・リーになっていく途中の資料」 にこそ、 マニアとしての面白さがあると思います。


主な参考資料

Bruce Lee公式 「Nutrition and Fitness」
https://brucelee.com/podcast-blog/2016/11/23/20-nutrition-and-fitness

Bruce Lee公式 「Research Your Own Experience」
https://brucelee.com/podcast-blog/2017/9/12/63-research-your-own-experience

Tuttle Publishing 『Bruce Lee: The Art of Expressing the Human Body』
ISBN 978-0-8048-3129-1
Bruce Lee / edited by John Little

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